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#9 障がいがあってもなくても、誰でも気軽にスポーツの楽しみを得られるボッチャ
福島県ボッチャ協会
子どもから100歳まで、年齢を問わず男女混合でプレーできて、障がいの有無も関係ない。会議室ぐらいのスペースがあればできる。そんなスポーツはなんでしょう?
答えは、パラリンピックの正式種目であるボッチャ。簡単だけど頭を使う、奥の深いスポーツです。どんな年齢からでも始められるので、「健康のために身体を動かしたいけど運動がちょっと苦手」という人や、「仲間と手軽なスポーツを始めてみたい」という人にもおすすめ。今回は、誰でも気軽に楽しめるボッチャの魅力をご紹介します。
カーリングに似たルール。カギは戦略
ボッチャとは、赤・青に分かれて6球のボールを投げたり、転がしたり、他のボールに当てたりして、ジャックボール(目標球)と呼ばれる白いボールにいかに近づけるかを競うスポーツです。「氷上のチェス」と呼ばれるカーリングに似ていて、戦略がカギになります。
ボールの投げ方に決まりはありません。上手投げでも、下手投げでもOK。身体障がいによりボールを投げることができない人はランプ(勾配具)を使い、「ランプオペレーター」と呼ばれる同伴者に狙いを伝えてプレーします。
福島県ボッチャ協会理事の若松伸司さんは、2008年の協会の立ち上げ以前からボッチャの普及に携わっています。東京パラリンピックでボッチャの知名度が高まったこともあり、最近では町内会や子ども会、企業や大学などから教えてほしいと声を掛けられることが増えたといいます。取材の後も、他競技のスポーツ少年団からの依頼で教室が控えていました。
「僕、101歳のおばあちゃんとプレーしたことがあるんです。そのぐらいご高齢の方でも、幼稚園に通うような年齢のお子さんでもできる競技なんですよ。
いろんな戦略を練ることができる奥深さが、ウケる一つの要素かな、なんて思っています。自分のボールをジャックボールに近づけるために、相手のボールをどうするか。弾くか、もしくは空いているところに自分のボールをちょっと寄せるか……はたまた、ボールの上にボールを乗せるのもアリ。立体的に考えることもできるんですよね」
「絶対王者」のない面白さ
県ボッチャ協会では、定期的にボッチャができる場所として、毎月第2日曜日の午前中に郡山市障害者福祉センターでボッチャ教室を開いています。新型コロナウイルスの感染拡大期間を除き、協会創設の2008年から継続して開催されています。
12月の教室をのぞいてみると、体育館では20人ほどの参加者が黙々と練習をしていました。この日は障がいのある人とそのサポーターが多く、自主練に励んだり、戦略を話し合いながら試合形式を楽しんだりしています。
障がいのあるなしにかかわらず、ボッチャはパラスポーツに興味を持った時に一番挑戦しやすいスポーツではないかと若松さんは語ります。
「花形の車いすバスケは、車いすを操作しながらボールを操作するのがすごく難しいです。ブラインドサッカーは、視力が正常な人もアイマスクを付けてプレーできますが、真っ暗な世界で走るのはなかなか怖い。その点、ボッチャは最初からパラリンピアンと同じぐらいのレベルでできる、面白さを感じやすいスポーツだと思います」
特に身体障がいのある人は運動不足になりやすく、楽しみながら定期的に身体を動かせて、人と接することができる場は貴重です。ボッチャ教室の参加者の中には、消極的な性格であまり他人と関わろうとしなかったのに、練習への参加を重ねることで戦略について会話ができるようになり、参加者と打ち解けていったという人もいらっしゃるといいます。
3年ほど前から参加している神成洋和さんは、もともと車いすバスケをしていたところ、リハビリの先生からの紹介をきっかけにボッチャを始めたのだそう。
「自分が考えた戦略に、実際のボールの軌道がはまると面白いです。車いすバスケをしていたから遠くに投げるのは得意なんですよね。
ボッチャはメンタルスポーツみたいなところがあって、相手のペースに飲まれないようにすることが肝心。絶対王者というものがなくて、僕も県のチャンピオンに勝ったことがあります。車いすバスケは障がいの状態でクラス分けされチームの中で役割が決まることもありますが、ボッチャは自分より障がいが軽い人に勝てることもある。対等になれるという部分が魅力として大きいです」
身体の障がいが重くなるほど、他人と同じ目線で何かに取り組めるものは少なくなりますが、ボッチャなら同じ条件で競技を楽しむことができる。自分でボールを投げられない人も、ランプオペレーターとして入る家族などと同じ目標を持つことができます。
仮に身体障がいのある人とメジャーリーガーが対戦したとして、どちらが勝つかわからない。ボッチャとは、そんな唯一無二のスポーツなのです。
障がいの有無を問わない大会も拡大中
ボッチャの大会は、まだ障がいのある人を対象にしているものが多いですが、ボーダーレスに参加できる大会も徐々に増えてきています。
福島市では2022年から、白河市では2023年から、市の主催で出場資格に制限のない大会が開かれています。白河市の大会には19チーム70人が出場。中には県ボッチャ協会のスタッフからボッチャを教えてもらい、ご近所さん同士で出場したという主婦チームもあったのだそう。運動が苦手な人も気軽にチームを組み、優勝を狙えるのです。
県ボッチャ協会でも2013年から、障がいの有無にかかわらず3~5人のチーム戦で戦う「ふくしまボッチャフレンドリー大会」を開いています。感染症拡大防止のため2020年から中止していますが、多い時には100人ほどの参加者が集まりました。今後復活する予定で、少しずつではありますが、障がいの有無を問わず真剣勝負ができる場は増えています。
会議室や公民館でも手軽にできる
ボッチャのもう一つの良さは、場所を問わないこと。正式な区画はバドミントンコートですが、競技者が跳んだり走ったりすることはないため、会議室や公民館などある程度のスペースがあればルール通りに競技ができます。東京オリンピック前には、小池百合子都知事が都庁の一室に張られたコートでスラックスにスカーフ姿でプレーしたことも話題になりました。雨天でゲートボールができない時に、と高齢者からの人気も高まっています。
「簡単、といっても道具がないとできないと思いますので、数人でもやってみたいという方には道具を貸し出しています。月1回のボッチャ教室も、障がいのない一般の方も、もちろんウェルカム。いつでもいらっしゃってください」
スポーツの醍醐味は、勝ち負けがつくことで達成感や喜び・悔しさを得られることや、仲間と協力したり高め合えたりする点にあります。そして結果をバネに新たな欲求が生まれ、体だけではなく、心にも良い刺激が加わります。
ボッチャは、そうした胸の高鳴りをさまざまな人と共有できるスポーツです。興味を持った方はぜひ、教室に足を運んでみてはいかがでしょうか。
■福島県ボッチャ協会
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2024年1月30日公開
Photo by 佐久間正人(佐久間正人写真事務所<外部リンク>)
Text by 五十嵐秋音(マデニヤル<外部リンク>)
Movie by 杉山毅登(佐久間正人写真事務所<外部リンク>)