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#23 市民の健康を支えて20年。もとみやスポーツネットワークが果たす役割
もとみやスポーツネットワーク
武田由子(たけだ よしこ)さん

毎週木曜日の朝10時。本宮市内の公民館に、70代~80代の方々が集まってきます。目的は、毎週ここで開催される健康教室「慶翁(けいおう)大学」に参加すること。脳トレやストレッチ、楽しみながら取り組める筋トレなどを組み合わせた、約1時間の体力づくりです。
慶翁大学がスタートしたのは2019年5月のこと。現在、15名の方々が会員に登録しています。皆さんが集まる公民館を訪ね、その様子を取材しました。
65歳以上を対象とした健康教室「慶翁大学」の活気
この日は、講師の先生を囲むように参加者がイスに座り、手の指をほぐすストレッチからスタートしました。「今朝は寒かったね」「何時に起きた?」そんな何気ない会話を交わしながら、無意識に溜まった指のコリをほぐしていきます。
続いて、先生の指示に沿い、親指から小指へと順番に指を折っていく動作。小指まで折り終わったら、今度は小指から親指へと指を伸ばしていきます。さらに、右手と左手で1本ずつずらしながら指を折ります。脳トレに役立つ少し難しい動きに、皆さん笑いながらチャレンジします。

手のストレッチが終わったら、次は足の曲げ伸ばし、そして立ち上がって全身へ。体を使う範囲を少しずつ広げ、無理なく全身のストレッチへとつなげていきます。

慶翁大学を運営するのは、総合型地域スポーツクラブ「もとみやスポーツネットワーク」です。総合型地域スポーツクラブとは、1995年に文部科学省・スポーツ庁が立ち上げたスポーツ振興施策の一つ。スポーツ庁のウェブサイトではこう定義されています。
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総合型地域スポーツクラブは、人々が、身近な地域でスポ-ツに親しむことのできる新しいタイプのスポーツクラブで、子供から高齢者まで(多世代)、様々なスポーツを愛好する人々が(多種目)、初心者からトップレベルまで、それぞれの志向・レベルに合わせて参加できる(多志向)、という特徴を持ち、地域住民により自主的・主体的に運営されるスポーツクラブです。
出典:スポーツ庁「総合型地域スポーツクラブ」<外部リンク>
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もとみやスポーツネットワーク(以下、もとスポ)は2006年、市内の文化・スポーツ関係者の有志が中心となり設立されました。武田さんは東京都出身。高校時代、こども達をキャンプに連れて行くボランティアに参加するようになり、社会教育を学ぶ専門学校を経て、卒業後はボランティア団体の運営に携わりました。そのなかで大玉村出身のご主人と出会い、結婚を機に旧本宮町に移住。その後も体育指導員として地域活動に参加し、その活動がもとスポの立ち上げにつながりました。以来、約20年にわたり組織の運営に携わっています。

武田由子さん(中央)
今回お邪魔した慶翁大学は、もとスポのプログラムの一つとして始まりました。地域の高齢者に体と脳を動かす機会を提供し、少しでも日々を健康に過ごしてほしい。そんな想いがあったと武田さんは語ります。自力で会場に来られる65歳以上の方なら、市内だけでなく市外からでも、男女を問わず、月2,200円の会費で参加が可能です。
「今日参加しているのは、71歳~85歳かな。運動はもちろんですが、ここに来て仲間としゃべったり笑ったりする時間が、皆さんにとって日々の良い刺激になっているようです。皆さん、木曜朝に慶翁大学に来ないと体が落ち着かなくなっているみたいですね。“私、来週は予防接種で休まないといけないのよ”って、ちょっと残念そうに言われたりすることがありますから」
年齢を重ね、つい外に出るのが億劫になり、人付き合いが減ってしまいがちな高齢者の方々。体力づくりだけでなく、そんな課題を解決する役割も、慶翁大学は担っています。
体力だけでなく人間関係も、もとスポで作って欲しい
脳トレやストレッチをメインにした前半の時間でじっくり体を動かした後、少しの休憩を挟んで、後半は少し体に負荷のかかる動きにチャレンジします。この日一番の盛り上がりを見せたのは、ガムテープで長く貼り合わせた新聞紙を足で引き寄せるメニュー。2班に分かれてその速さを競います。皆さん、童心に返ったような笑顔を見せながら、素早く足で新聞を引き寄せます。

新聞紙は引き寄せた衝撃で何度も破れてしまい、そのたびにガムテープで補修しながら運動を続けますが、そこで武田さんが必要以上に手を貸すことはありません。参加者が自分たちで協力しながら補修をしていきます。
「意地悪をしているんじゃないんですよ。意識的に何もしないようにしているんです。イスも自分たちで運んでもらいますし、終わった後の掃除も皆さん自身の役割。自分たちがお金を払って自分たちで公共施設を使うわけですから、自分達で綺麗にして返すのは当たり前ですし、それもまたトレーニングになると思っているんです」

武田さんのそんな配慮もあってか、参加者の皆さんには自然に仲間意識が宿り、うれしい変化もあったと言います。
「いつの間にか、運動が終わった後、仲の良い参加者同士でランチに行くようになったんです。教室に来た瞬間から“今日はどこに行く?”って話しているのをよく聞きます。“まだ体操も始まってないですよ”って言って笑うんですけどね(笑)。
でも、私にとっては意外な、そしてうれしい変化でした。もとスポを通じてそうした関係づくりができればと、立ち上げの頃から思っていたんです。ただ何かをやって帰るのではなく、そこから新しい人間関係を得て、生活に張りが生まれるような関係づくり。それが慶翁大学で叶ったと感じています」
若いお母さんたちの健康意識も変えていきたい
もとスポでは、慶翁大学以外にもさまざまなプログラムを開設し、市民の健康増進に貢献しています。ヨガやボディメイクエクササイズ、太極拳などのプログラムがあるエンジョイコース、小学1年生から一般の方まで3つのコースに分かれて水泳の指導が受けられるアクアコース、筋膜体操や幼児体操を行うスタディーコースなど、コースは全部で5つ。現在、本宮市内には民間のジムやスイミングクラブがないので、もとスポが民間の施設よりも格安の会費でその役割を果たしています。なかには郡山市や二本松市から参加している方もいるそうです。
武田さんは、そのプログラムの運営のすべてに関わっています。「慶翁大学」など各プログラムのネーミングも武田さんが考えたもの。武田さんの企画力と発想力が、もとスポの運営の原動力となっています。
「人のために何かしているのが根っから好きなんでしょうね。お盆と正月は教室もお休みになるので、なんだかテンションが下がっちゃう(笑)。皆さんが笑顔で教室に来る様子を見ることで、私自身も元気になれているのだと思います」

まもなく20年の節目を迎えるもとスポ。武田さんは今後、どんなことを目標に活動を続けようとしているのでしょうか。
「2年ぐらい前、慶翁大学で皆さんの骨密度を測ったことがあったんです。そしたら、びっくりするぐらい低くて。こんなに運動してるのに…と思いましたが、特に女性は、年齢を重ねるとどうしても骨密度が低くなってしまいます。だったら転ばない体作りをしようと、下半身の筋肉を使う動きをプログラムに組み入れてもらうなどしています。
でも、どのぐらい効果が出ているかって、なかなかわからないんですよね。今後は大学の先生などに協力していただいて、慶翁大学に参加した回数によってどのぐらい成果が上がっているのか、そのデータを取るようなことができたらと思っています」
さらに、慶翁大学以外のプログラムでも、武田さんらしい新しい発想の取り組みが始まりつつあるようです。

「子育て世代である30代・40代の参加者を増やしていけたらいいですね。こどもはプールや体を動かすプログラムに参加させているのに、お母さんたちはなかなか参加できません。毎週や毎月の参加が難しい方でも気軽に体を動かしてもらえるよう、今後は単発で参加できるイベントも用意していきます。参加のハードルを下げることで、少しでもお母さん達の意識を変えられたらと思っています」
約1時間のプログラムを終えた慶翁大学のみなさんは、心なしか来たときより顔色も良く、背筋もピンと伸びたように見えます。帰路に就く一人ひとりに声をかける武田さん。何を話していたのか聞いてみると、笑いながらこっそり教えてくれました。
「今日はこれから、みんなでうどん屋さんに行くんですって」
<動画>ショートムービーをご覧ください。
2026年2月4日公開
Photo by 佐久間正人
Movie by 杉山毅登
Text by 高橋晃浩
(マデニヤル<外部リンク>)
今回は取材エリアをこおりやま広域圏に拡大して、本宮市で活動する団体を紹介しています。





