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#25 組織の枠を超え地域に広げる健康の輪。郡山福祉会が取り組む健康経営
社会福祉法人郡山福祉会

職員の健康管理に必要なお金をコストではなく投資と捉え、組織の成長や生産性の向上につなげていく経営手法「健康経営」。少子高齢化による労働人口の減少が叫ばれるなか、健康で長く働ける人材を確保できるかどうかは、組織を維持するために避けては通れないテーマとなりつつあります。
そうしたなか、社会福祉法人郡山福祉会では、約20年にわたり健康経営の取り組みを継続し、職員の健康維持と離職抑止につなげています。取り組みのきっかけや具体的な活動、そしてその成果について、理事長の矢部真裕美さんと総務部長の豊田英人(とよた ひでと)さんに話を聞きました。
地域に先駆け施設内禁煙を導入
郡山福祉会は1989年の設立。翌1990年4月、自宅での生活が困難な高齢の方が比較的安価で食事や生活支援サービスを受けられる軽費老人ホーム「采女の里やすらぎ」の運営を始めました。その後、特別養護老人ホームやデイサービス、ショートステイも可能な地域密着型特別養護老人ホーム、介護保険センターなどを開設。介護や地域支援を通じて、誰もが安心して暮らせる地域づくりに貢献しています。
一方、「高齢者に健康で過ごしてもらうためには高齢者をサポートする職員も健康でなければ」との考えから、健康経営にも積極的に取り組んできました。スタートは2006年。健康経営という言葉が日本で認識され始めたばかりの頃です。その先駆的な取り組みには、前理事長の故・宗像照男さん(矢部理事長の父)の考えが反映されていたといいます。
「父は、とりわけたばこに関しては非常に強い信念を持って“吸ってはいけない”と職員に言い続け、施設内を禁煙化しました。地域のほかの施設や企業に先駆けた取り組みで、“うちは全面禁煙で、施設内に喫煙所もありません”と言うと非常に驚かれていました」(矢部理事長)

矢部真裕美理事長
その後、2018年には敷地全域を完全禁煙化。2025年11月に、たばこを吸わない職員に対して1ヵ月あたり5,000円相当で2026年夏の賞与に健康奨励金として3万円(12月~翌年5月)を上乗せすることを決議しました。現在、「喫煙に関する申告書」をもとに上司が毎月の面談で確認しています。現在喫煙中でも、禁煙できた翌月から奨励金が加算される仕組みです。次回は冬の賞与で6月~11月の取組みに対し奨励金を支給し、職員の脱たばこを後押ししていきます。健康奨励金の導入をきっかけにたばこをやめた職員からは、「やめるきっかけが欲しかったのでありがたい」「やめるよう医師から言われたタイミングだったので良かった」などといった声が寄せられているそうです。2025年11月時点での全職員における喫煙率は17.9%。近い将来の0%達成を目指しています。
健康指標は全国平均・県平均に比べ軒並み良い数値に
郡山福祉会では、禁煙以外にもさまざまな取り組みで職員の健康意識を高めようとしています。
例えば、体重だけでなく脂肪量や筋肉量も測定できる体組成計の導入。年3回の定期的な測定を職員に促しています。最初は「面倒だ」という声も聞かれたそうですが、自身の健康状態がグラフなどで可視化されるため効果を実感しやすく、健康な体を維持する意識の継続につながっているそうです。

また、職員も自由に使えるトレーニングマシンが置かれた「YY(わいわい)健康ジム」があります。本来は入居者の機能訓練がメインですが、地域にも開放するジムを目指して整備しました。整備直後にコロナ禍となり、地域の人々への開放はまだ実現していませんが、高性能のマシンが揃っており、職員の健康づくりを支える場として機能しています。
福島県は、喫煙率やメタボ率、食塩摂取率など、健康にまつわる都道府県別の指標で軒並み全国平均を上回っており、ワースト上位となる項目もあります。しかし郡山福祉会では、さまざまな取り組みの結果、職員の各数値が全国平均や福島県平均と比べて軒並み良い結果となっているそうです。

さらに、健康経営の一環として、年齢や障がいの有無にかかわらず互いに支え合い、地域でいきいきと・明るく・豊かに暮らしていける社会を目指す理念「ノーマライゼーション」の推進にも取り組んでいます。約130名の職員のうち女性は約6割。年齢は、高校を卒業して入職したばかりの18歳から「介護サポーター」として働く70代後半の方まで、幅広く受け入れています。豊田さんは、さまざまな世代が活躍することのメリットをこう語ります。
「高齢の職員からは、“今の若い人たちは真面目だし、みんな一生懸命だね”という声が聞かれますし、若い世代の職員からは、“ご高齢でもいきいきと働かれていますよね”という声が聞かれます。こうした、それぞれが尊重しあう雰囲気が生まれるのも、一人ひとりが心身ともに健康であるからではないかと思います」
豊田さんの言葉を受けて、矢部理事長がこう続けます。
「介護の現場は、各専門職が利用者の心身の状態をきちんと把握し、その方にどんな支援が必要かを連携して考える必要があります。そこで私たちは、自分たちが大事にしたいこととして3つのK=感謝・謙虚・健康を定め、“ありがとう”や“すみません”、“おかげさま”などの言葉を素直に声に出し、気持ちを表現するよう心掛けています。端から見ると“大変な仕事だよね”と思われがちな介護の現場ですが、みんな一緒に支え合って働ける素晴らしい仕事です」
健康経営は組織のトップが率先して取り組むべき
ここまでご紹介した以外にも、健康診断受診時の休暇制度や不妊治療に取り組む職員のための出生支援休暇制度の導入など、さまざまな取り組みを重ねる郡山福祉会。健康経営に積極的に取り組む事業者として、国や県などからたびたび認定や表彰を受けています。今後は、その取り組みをさらに充実させつつ、より地域に開かれた施設の在り方を模索したいと語ります。
その一つとして2023年から施設内で開催しているのが「YY(わいわい)カフェ」です。地域で暮らす一般の方が、病気や認知症があってもなくても気軽に参加できる場として開催されています。毎回、居宅介護支援事業所の主任介護支援専門員が司会を担当し、法人で指導いただいている作業療法士の先生や、関係する企業の方のご協力もいただき、介護に関するさまざまなテーマで、1時間半ほどの時間をにぎやかに過ごしています。
「健康を損ねたから社会参加できなくなるのではなく、社会参加することが健康の源となるのだという考えのもと、ささやかではありますが集まる場を提供し、積極的に社会と交わるきっかけを作って差し上げたいと考えて運営しています」(豊田さん)

豊田英人さん
組織として健康経営を推進するためには何が必要なのか。矢部理事長は、「自分の組織に何が足りず、何を取り入れるべきか、まずは組織のトップがきちんと考え、率先して取り組むことが欠かせない」と語ります。
「こころも身体も元気に働いてもらえる環境を整えることは、トップの責任であると思います。トップの方が率先して健康経営に取り組めば、健康を大切にする意識が社内に醸成され、そういう企業が増えれば、結果的に医療費の低減にもつながり、社会もより健全に回っていくようになると思っています」(矢部理事長)
一つひとつの企業が社員・職員の健康に配慮した経営をすれば、地域全体が健康になるはず。あなたが働く組織がまだ健康経営に乗り出していないなら、ぜひ郡山福祉会の活動をヒントに、小さなことから職場での健康づくりに取り組んでみてはいかがでしょうか。
<動画>ショートムービーをご覧ください。
2026年4月8日公開
Photo by 佐久間正人
Movie by 杉山毅登
Text by 高橋晃浩
(マデニヤル<外部リンク>)





