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#8 「感染管理認定看護師」の育成で感染症から地域医療を守る

3 すべての人に健康と福祉を
ページID:0096728 更新日:2023年12月19日更新 印刷ページ表示

公益財団法人星総合病院高度専門教育センター

 

高度専門教育センタースタッフ

 

交通が発達した現代において、一度どこかの国で流行した感染症は世界規模で広まりやすくなっています。

 

そんな感染症の治療と拡大防止の要となる医療機関でリーダーシップをとるのが、感染管理認定看護師です。2023年9月、郡山市にある公益財団法人星総合病院高度専門教育センター(以下、高度専門教育センター)が、東北初となる感染管理認定看護師(B課程)の教育機関を開講しました。感染症から地域を守るリーダーの育成をスタートさせた方の思いを聞きました。

 

東北初の教育機関として2023年に開講

 

感染管理認定看護師とは、感染症に関する専門知識と技術を備え、スタッフや患者を感染から守る感染管理分野のスペシャリストです。

 

主な役割は、院内感染を防ぐために空間を分けたり動線を調整したりと、その病院の状況に適した感染管理の方法を考え感染症の拡大を抑えること。自分の職場だけではなく、職種や組織を越えた地域医療全体の感染防御のリーダーとしての役割も求められます。

 

高度専門教育センターで教員を務める加藤和枝さん

 

高度専門教育センターで教員を務める加藤和枝さんは、2009年に資格を取得し、同年に新型インフルエンザが流行した時にも活躍したベテランの感染管理認定看護師です。

 

星総合病院は、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大初期から郡山市保健所と連携して、入院患者の受け入れや発熱外来の開設を行っていました。院内の感染防御や患者の受け入れ体制の整備、保健所とのやり取り。院内のみならず、地域の医療機関や介護施設などの相談対応、クラスターが発生した施設への対策の助言――新型コロナウイルスに関するあらゆる相談が加藤さんのもとに集まってきたといいます。

 

「自分の施設の業務も担いながら、クラスターが発生した別の施設から支援の依頼も受けると、一人の感染管理認定看護師がカバーする範囲がかなり広くなってしまっています。感染管理認定看護師は県内でまったく足りていないということを改めて実感しました。人数が増えて有事の際に協力し合える関係がつくれれば、よりスムーズな感染管理につながるはず。だからもっと仲間が増えればいいなと思っていました」

 

新型コロナウイルスの流行をきっかけにますますその重要性が確認された感染管理認定看護師ですが、近くても埼玉県や新潟県の教育機関に通わなければ取得できない資格でした。県内の資格保有者は35人、郡山市内の医療現場で活躍するのは6つの病院に一人ずつの計6人のみ(2023年12月時点)。週5日の講義を11ヵ月受けなければいけないこともハードルでした。

 

次なる感染症から地域を守るべく、県内の各医療団体から教育機関の設立を望む声が高まり、福島県は運営事業者を公募。高度専門教育センターが手を挙げ、東北初の感染管理認定看護師の教育機関となったのです。​

 

受講生はベテラン看護師。「高め合える仲間」

演習風景

 

高度専門教育センターで講座を受ける第1期生は、当初の定員を上回る17人。県内15人、県外2人で、平均年齢は41歳ほど。半分が病院で経験を積んだ主任・副主任看護師や看護師長を務める管理職です。

 

講座では座学で感染症に関する専門知識を学ぶのはもちろん、2回の実習では感染管理認定看護師として現場で活躍するための2つのスキルを身に付けます。

 

一つめのスキルが、患者の面接や診察、感染症に係る薬剤の投与など、看護師の担当領域を超えた処置を医師の指示で手順書に沿って行えるようになること。取材にうかがった日は、それを学ぶ「特定行為研修」の実習日でした。症状や既往歴などのシナリオをもとに、グループワークで病名を導き出す面談の演習が行われており、活発に議論が交わされていました。年明けから自分たちの職場で始まる実習で使えるよう、手順書をブラッシュアップしていきます。​

 

演習メモ

 

もう一つが、専門知識をもとに実際の施設で感染管理ができるようになることです。県内の医療機関での研修では、感染管理認定看護師の指導のもと、院内の感染管理を行ったり、連携施設の相談に乗ったりします。現場での経験をもとに、最終的には自分の職場の感染管理の方針や計画を示す「感染管理プログラム」を作成して完成版を持ち帰るイメージです。

 

受講生の村上さん

 

開講が決まってすぐ「絶対に通いたい」と受験勉強に励んだと話すのが、南東北第二病院の村上久美さんです。新型コロナウイルスの感染拡大が始まった当初、職場に感染管理認定看護師はおらず、一般病棟の所属長として病院機能を守るため手探りで感染防御を進めたといいます。院内クラスターでスタッフも多く感染し、マンパワー不足に陥ったことの歯がゆさから、独学で感染症の勉強を続けていたのだそう。

 

「独学で勉強を進めてきたこともあり、自分がやってきた勉強の総復習と肉付けという位置づけで楽しく勉強しています。勉強はすごく大変ですが、受講生同士で情報交換や共有できることがすごく多くて、高め合える仲間だと思っています。困ったときに地域全体で乗り越えられるようなネットワークをここで構築したいです」

 

地域で連携し合えるネットワークに

 

講義をする加藤さん

 

​県内で感染管理認定看護師のネットワークが構築できるのも、教育機関が誕生したことによる相乗効果の一つだと加藤さんは話します。受講者の多くが県内の医療機関に勤め、講師も多くが県内の医療関係者。実習先でも、感染管理認定看護師の先輩との関わりをつくり職場に戻っていくことができます。

 

加藤さんが資格を取得したのは、東京都内の看護研修学校でした。コロナ禍で職場と地域の感染防御を先導し、絶え間なく選択が求められる中で支えとなったのは、全国で同じく医療の第一線に立っていた同期たちだったと振り返ります。

 

「面会者のマスクをどうするか、保健所の調査でどんなことを聞かれたか、抗菌薬の使い方、リネンの回収はどうしているか―など。かなり初期の段階からどんなことでも電話やLINEグループで気軽に連絡を取り合って聞き合い、支え合っていました。卒業してからだいぶ経ちますが頼りになりますし、すごく心強い存在です。

 

講座では知識や技術を学んでもらうことはもちろんですが、受講生同士の関係性を大事にして、県内のネットワークを強固なものにしてもらいたい。同じ志を持った受講生と触れ合って、人間性を磨いて、将来的には地域のキーパーソンとなるような、あらゆる相談に対応できる感染管理認定看護師を育てていきたいです」

 

ペスト、エイズ、新型インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症――。人類はこれまで、数多くの感染症を乗り越えてきました。しかし、新しい感染症の脅威はいつまた迫ってくるかわかりません。そんなときに地域を感染症から守るリーダーたちのネットワークが、郡山市を起点に広がり始めています。​

 


■公益財団法人星総合病院高度専門教育センター<外部リンク>


<動画>ショートムービーをご覧ください。

2023年12月19日公開

Photo by 佐久間正人(佐久間正人写真事務所<外部リンク>

Text by 五十嵐秋音(マデニヤル<外部リンク>

Movie by 杉山毅登(佐久間正人写真事務所<外部リンク>