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株式会社 孫の⼿ 代表取締役 ⼭⼝ 松之進 さん
(写真左から2番目)
実りの時期を迎えた畑を訪ね、その場で収穫したばかりの野菜をふんだんに使った料理を⻘空の下で味わう⽇帰りツアー「Food Camp®(フードキャンプ)」。福島第⼀原⼦⼒発電所の事故をきっかけに⾵評被害にさらされた郡⼭の農産物の信頼回復を⽬指し、株式会社孫の⼿が2016 年にスタートさせました。同社の⺟体は、郡⼭でタクシー事業や観光バス事業を⼿がける企業グループ。事業で積み重ねた知⾒をツアーに活かすことで、眠っていた郡⼭の魅⼒に新たな価値を与え、持続可能な地域づくりに貢献しています。
代表取締役の⼭⼝松之進さんに、Food Camp®に取り組んだ経緯とその後の事業の広がりについて話を聞きました。
⾵評被害の払しょくを⽬的に始まった⾷の⽇帰りツアー
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郡⼭市では、この地の⾵⼟ならではの味わいを持った野菜「郡⼭ブランド野菜」が複数の農業⽣産者により作られています。地域に新たな産品を⽣み出すことを⽬指して2003年に栽培がスタート。2026年8⽉現在、「御前⼈参」「万吉どん(⽟ねぎ)」「とうみぎ丸(とうもろこし)」など15品種がブランド野菜の認証を受けています。そのおいしさは⼝コミで広まり、今や市内外に多くのファンを持っています。
⼭⼝社⻑にFood Camp®のアイディアをもたらしたのは、まさに郡⼭ブランド野菜との出会いからでした。地元に素晴らしい⾷材があること、そしてそれを作る魅⼒的な⽣産者がいることを知り、⼤いに感動したと⾔います。
⼭⼝松之進さん
その後、東⽇本⼤震災と原発事故が発⽣。福島県の農産物は⾵評被害という強い逆⾵にさらされます。⼭⼝社⻑は、「農産物の安全性を伝えるためには⽣産者の想いを消費者に広く届ける必要がある」と考えましたが、当時は⽣産者と消費者が直接触れ合う機会がほとんどありませんでした。
そこで企画したのが、腕利きのシェフがキッチンカーで畑に出向き、その⽇その場で収穫された野菜を使った料理を参加者にふるまう、⽇帰りの⾷のツアー。参加者は畑で⽣産者から農業への想いを直接聞き、⾃ら収穫を体験。その野菜をその場でシェフが調理し、畑の⼀⾓に並べたテーブルで、⽣産者とともに味わいます。レストランではシェフが主役ですが、この⽇はシェフだけではなく、⽣産者も主役。⽣産者をヒーローにするツアーです。地域の交通や観光に関わってきた企業グループならではの発想でした。

Food Camp®の様⼦。畑のすぐ隣にテーブルがセットされている
「地元にこんな素敵なものがあったんだ」と気づく機会に
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Food Camp®は、地元の⼈々にとっては地元再発⾒のツアーでもあります。
「よく『何もない』と⾔われる郡⼭市ですが、何もないのではなく、私達が気づいていなかっただけなんです。普段なら気にもせず通り過ぎてしまう畑に1 ⽇だけのレストランをオープンし、『こんなに素敵な場所があったんだ』『こんなに魅⼒的な⽣産者がいたんだ』と気づいてもらうことは、この地で暮らし続けたいと考える⼈を増やし、地域の持続可能性を維持することにつながると考えました」
すべてが順調に進んだわけではなく、畑に⼀般の⼈が⼊ることに対して、当初は⽣産者からの理解がなかなか得られなかったとも⼭⼝社⻑は振り返ります。
「⽣産者の皆さんにとって畑は聖地ですから、⼊ってほしくないというのが本⼼だったと思います。しかし、実際に畑にお客様を招き、皆さんのうれしそうな表情を⾒ることで、⽣産者の意識も変わっていきました。東京からのツアー参加者も多く、⾵評払しょくにつながる取り組みであると実感してもらえたことも、⽣産者の皆さんからご理解をいただくことにつながったと思います」
また、⾃⾝が育てた農産物がシェフの⼿によって美しい料理へと⽣まれ変わり、そのおいしさに参加者が感動する様⼦を⾒ることは、⽣産者の皆さんが⾃⾝の仕事の価値を知る⼤きな機会になっているのでは、とも語ります。
⾼齢者も⾃分らしくいられる環境をつくる
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Food Camp®にはもう⼀つ、⼭⼝社⻑が企業グループのなかで取り組んできた事業の経験が活かされています。
グループ中核企業である郡⼭観光交通株式会社では、2000 年から介護事業を⼿がけ、地域の⾼齢者の移動⽀援に携わってきました。そのなかでしばしば⽬にしたのが、⾃宅から⾃由に外出できず社会から孤⽴してしまう⾼齢者の姿でした。
そこで⼭⼝社⻑は2009 年、タクシーによる⾃宅送迎付きで旅⾏に出かけられるツアー商品の販売をスタート。旅のすべての⾏程をパッケージ化することで、⾼齢者の⽅も安⼼して参加できるツアーを作ったのです。送迎付きだからこそ、「お酒を飲んでも安⼼」「たくさんのお⼟産を買っても⾃宅まで送ってくれるので安⼼」。その仕組みはそのままFood Camp®にも活かされています。
「家族の誰かに頼ることなく、⾃分の好きなときに好きな旅に⾏けたら、⽼後の暮らしはより豊かなものになるはずです。当時はまだSDGs という⾔葉はありませんでしたが、結果として『誰も取り残さない』ことへの貢献につながっているのかなと思っています」
⽔素キッチンカーの導⼊で環境にも配慮
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2019 年、株式会社孫の⼿は、Food Camp®の事業が評価され、『第7 回環境省グッドライフアワード』の環境⼤⾂賞を受賞しました。
環境省グッドライフアワード表彰式の様⼦
「⽣産者をヒーローにするために⽣まれたFood Camp®が環境に資する事業であることに受賞するまで気づかなかった」と⼭⼝社⻑は振り返りますが、受賞を機にあらためて事業を⾒直すなか、⼀つの⽭盾に気づきます。キッチンカーが、排気ガスを出すディーゼル⾞だったのです。
「せっかく良い事業ができていても、畑を汚して帰ってくるのでは意味がありません。次にキッチンカーを買い替えるときには環境に配慮した⾞にしたいと考えるようになりました」
そんな⽮先、トヨタ⾃動⾞から、⽔素燃料電池⾞をキッチンカーとして活⽤する実証実験への協⼒依頼が⼭⼝社⻑のもとに寄せられます。震災以来、福島県相双地域では復興の核として再⽣エネルギーに関わる取組みが数多く始まりました。浪江町にはFH2R というクリーン⽔素を製造する⽇本最⼤の設備が建設され、⽔素を活⽤した先進的な取り組みが進められています。Food Camp®がきっかけとなり、その実証実験のパートナーとして孫の⼿に⽩⽻の⽮が⽴ったのです。
⽔素燃料電池キッチンカーでの調理の様⼦
「⽔素を使った技術の社会実装はまだ道半ばですし、その有効性をただ講義のように⼈に伝えても、すぐに忘れられてしまうと思います。でも、感動できるような体験のなかに⽔素の技術が使われていれば、時が経っても忘れてしまうことはないでしょう。Food Camp®に⽔素燃料電池キッチンカーを導⼊し、その⾞で作った最⾼の料理を畑で提供できれば、それを⼊⼝に理解が深まって、⽔素に対するポジティブなイメージが広がっていくはずです。今後は、Food Camp®を通じて⽔素の有効性、必要性を多くの⼈と共有できればと思っています」
現在はFood Camp®の枠を超え、⾷を通じて環境を考える機会の創出にも⼒を⼊れています。2026 年7 ⽉には、猪苗代湖畔で開催された『湖まつり』に⽔素キッチンカーを出展。裏磐梯での繁殖により⽣態系への影響が懸念される特定外来種の⼤型ザリガニ、ウチダザリガニを⾷材として使⽤する試みにおいて⽔素キッチンカーを活⽤し、来場者にウチダザリガニを使った料理を振る舞いました。

湖まつりで振る舞われた料理
実際に⾒て、触れて、⾷べることで農業の価値を伝えてきたFood Camp®。その仕組みに⽔素という新たな要素を取り⼊れながら、郡⼭の魅⼒と誇りを広く届けるための孫の⼿の取り組みはこれからも続いていきます。「おいしい」「楽しい」から社会を変える、「おいしい⾰命」です。
■株式会社孫の⼿
受賞年度︓令和3年度(第3 回)
活動内容︓「 地元の価値創出」「⽣きがい創出」「郡⼭⾷⽂化創出」による持続可能な地域ネットワークづくり
第3 回こおりやまSDGs アワードについてはこちら
▶印刷用PDFデータ Vol.13 株式会社孫の手 [PDFファイル/4.79MB]
▶インタビュー動画も配信中 こおりやまちゅ~ぶ!
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